東京高等裁判所 昭和59年(行コ)79号 判決 1986年1月29日
神奈川県大和市下鶴間二五七〇番地
控訴人
東京産業株式会社
右代表者代表取締役
冨永正雄
右訴訟代理人弁護士
井出正敏
同
井出正光
同
玉利誠一
神奈川県厚木市水引一丁目一〇番七号
厚木税務署長
被控訴人
高橋辰四郎
右訴訟代理人弁護士
島村芳見
右指定代理人
有賀義雄
同
池本幸二
同
郷間弘司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一双方の申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人の法人税につきなした
(1) 昭和四六年六月一日から同四七年五月三一日までの事業年度についての同五〇年六月三〇日付再更正のうち二二四一万九三〇一円を翌期へ繰り越す欠損金に加算しなかつた処分
(2) 昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度についての同五〇年八月三〇日付更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、同五五年一二月三日付再更正及び過少申告加算税賦課決定により一部減額された部分を除く。)により納付すべきものとされた法人税額一五二六万八四〇〇円のうち六三万二五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額七六万三四〇〇円のうち三万一六〇〇円を超える部分
(3) 昭和四八年六月一日から同四九年五月三一日までの事業年度についての同五〇年八月三〇日付更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、同五五年一二月三日付再更正及び過少申告加算税賦課決定により一部減額された部分を除く。)により納付すべきものとされた法人税額七六五五万一〇〇〇円のうち七二六六万九七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額七三万二三〇〇円のうち五三万八三〇〇円を超える部分
をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者双方の主張は、次のとおり付加補足するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
一 控訴人
1 控訴人と訴外丸紅株式会社との間の昭和四五年四月一六日付代物弁済等の契約(本件代物弁済契約)において、原判示「本件事務所等敷地部分の土地」及び同「本件事務所建物等」は、丸紅の指示があり次第速やかに明渡すべきものとされているのに対し、原判示「本件工場等敷地部分の土地」、同「本件工場・倉庫」及び同「本件機械装置」(以上、本件買戻物件)については、一年間の明渡猶予を定めた。これは、本件買戻物件については単純に代物弁済として処理してしまわずに今後一年間の控訴人の実績を見たうえで最終的処理方法を決定することとしたからである。
すなわち、控訴人は、当時、原判示「本件全体の土地、建物」のうち本件事務所等敷地部分の土地を代物弁済することにより丸紅に対する債務額を減少させたうえで、本件買戻物件により操業を継続して丸紅に対する残債務を返済する見通しに立つていたが、丸紅は、控訴人の今後の業績回復には悲観的見方をし、本件全体の土地、建物を代物弁済として取得し控訴人に対する債権を一気に処理してしまおうとしていた。そこで、控訴人が丸紅に懇願を重ねた結果、とりあえずは本件全体の土地、建物及び本件機械装置を代物弁済としてはおくものの本計買戻物件である本件工場等敷地部分の土地、本件工場・倉庫及び本件機械装置については今後一年間における控訴人の実績を見たうえで、控訴人を解体するか否かにより、その処理方法を協議決定することとなり、その故こそ、この部分については一年間の明渡猶予期間が設けられたのである。
本件全体の建物及び本件機械装置の減価償却費が年額約五〇〇〇万円であつたため、控訴人は、丸紅に対し本件工場等敷地部分の土地、本件工場・倉庫及び本件機械装置の明渡が一年間猶予される対価として右減価償却費相当額として損害金名目で五〇〇〇万円を支払うこととなつた。これは、丸紅がこれを負担する筋合はなく、かつ控訴人がこれを負担したうえでの経営実績でなければ真の業績回復は判定し得ないという理由からであつて、この支払の事実は、本件代物弁済等の契約が一年後に更に最終処理方法を予定していたことを示唆する。
2 かくして、控訴人の業績好転により丸紅との間に昭和四六年九月三〇日付買戻契約(本件買戻契約)がなされるに至つたが、これは、本件代物弁済契約時に予定されていたものであつて、本件代物弁済契約と本件買戻契約とは、債権債務の処理方法として一体をなすもので、別個独立のものではない。
しかして、本件各契約により実質的に変動があつたのは控訴人の丸紅に対する債務八億円余のうち二億六二三〇万七〇〇〇円相当について本件事務所等敷地部分の土地及び本件事務所建物等を代物弁済することとなつただけで、本件工場等敷地部分の土地、本件工場・倉庫及び本件機械装置は引続き控訴人が操業を継続していて実質的に何ら変化がないのに、本件で各物件の価格に大きな変動が生ずる結果となつたのは、本件各契約を別個独立のものと解し、かつ本件買戻契約の代金三億九九〇〇万円が全物件を一括したものであるのに右代金額算出の基礎として使用された物件の価格を控訴人の取得価格としたことに因るのである。
しかし、本件工場・倉庫及び本件機械装置(本件資産)の価格は、丸紅の帳簿価格に基づくものであつて、その正当な価格を示すものではない。すなわち、丸紅は、本件代物弁済契約により受け入れた本件資産について受入簿価を定めたが(これには著しい作為が加えられている。)、本件買戻契約において、右昭和四六年三月三一日現在の帳簿価格に見合う金額を本件資産の価格として買戻金額算出の基礎として使用しているのは、むしろ丸紅が本件買戻契約により本件工場等敷地部分の土地及び本件資産については代物弁済がなされなかつたように会計処理をするために付した売却価格に過ぎない。
つまり、丸紅は、受入簿価を定めるにあたり、控訴人の帳簿価格から二〇パーセントの減額をし、本件機械装置のうちパイプライン装置等一億三七五〇万円を除外しているのであるから、昭和四六年三月三一日当時、本件資産の価値は、前記帳簿価格よりはるかに高額であつた。それにも拘わらず本件資産の実価格によつて本件買戻価格を定めたということは、とりもなおさず代物弁済がなかつた元の状態に戻したことにほかならない。
丸紅は、本件資産について代物弁済前の状態に戻す会計処理をするため帳簿価格に依拠した価格を本件資産の売却価格としただけのことであり、同時に控訴人は、代物弁済前の状態に戻す会計処理をするため控訴人の元の帳簿価格に依拠した価格を本件資産の取得価格としたのであつて、これは、むしろ当然になされるべき会計処理である。
3 控訴人が買い戻したのは、代物弁済物件の一部であつたため、買戻価格(実質的には買戻しにより復旧すべき控訴人の丸紅に対する債務額)を算出するに際し、あらためて鑑定評価をし、あるいは再生現価を算出するなど客観的時価を算出する試みは全くなされずに、専ら本件代物弁済契約の際に付された各物件の価額に依拠して問議された。このこと自体、本件工場敷地部分の土地及び本件資産については代物弁済前の状態に戻す意図であつたことを如実に示すものである。そして、本件工場敷地部分の土地及び本件資産の買戻代金は、個々の物件価格については決められず、一括して三億九九〇〇万円とすることに当事者間の合意が成立した。
4 丸紅は、昭和四七年一月七日、本件買戻しに関する会計処理をしたが、その間、昭和四六年九月期末に本件資産につき減価償却費を損金として計上しており、各物件の帳簿価額は減価償却した分だけ低額となつたのであるから、この損金計上された減価償却費の一部が固定資産売却益に化体して益金計上されている。このことも丸紅が代物弁済前の状態に組み戻すような会計処理をした一環をなすものである。
5 新たな主張
本件機械装置のうちパイプライン等の装置は、本件代物弁済の対象から除外されていたものである。
すなわち、本件機械装置の昭和四四年五月末の未償却残高が三億〇九八二万九〇〇〇円であつたところ、まずパイプライン等の装置一億三七五〇万円が除外され、昭和四五年三月末の未償却残高を一億五一五二万二〇〇〇円とし、本件建物全体と同様に確たる根拠もなく二〇パーセントの減額がなされ、本件機械装置の価格を一億二一二一万円としている(甲第一六、第一七号証の各一)。右パイプライン等の装置は、除去された訳ではなく現存し現に稼動していたから、代物弁済の対象とはならなかつたということにほかならない。
したがつて、仮に本件代物弁済契約と本件買戻契約とが別個独立のものであり、かつ本件買戻代金の各物件毎の売買価額が丸紅において割り振つた価額であるとしても、パイプライン等の装置は、代物弁済の対象から除外されて、控訴人の資産として残されていたのであるから、これまで帳簿から除外した控訴人の会計処理は誤りであつたと言うべく、昭和四四年五月期末の帳簿価額一億三七五〇万円に基づき減価償却費を計上するよう是正されるべきである。
そこで、耐用年数一一年、償却率〇・一八九を採用して減価償却をすると、
(期)
(減価償却費)
(期末帳簿価額)
昭和四四年五月期
一億三七五〇万〇〇〇〇円
昭和四五年五月期
二五九八万七五〇〇円
一億一一五一万二五〇〇円
昭和四六年五月期
二一〇七万五八六二円
九〇四三千六六三八円
昭和四七年五月期
一七〇九万二五二五円
七三三五万四一一三円
昭和四八年五月期
一三八六万三九二七円
五九四九万〇一八六円
昭和四九年五月期
一一二四万三六四五円
四八二四万六五四一円
ということになる。
したがつて、右パイプライン等の装置については、昭和四七年五月期から昭和四九年五月期まで減価償却費として右各減価償却費欄記載の額を損金に算入されることが認められるべきである。
二 被控訴人
1 本件工場・倉庫及び本件機械装置(本件資産)及び本件工場等敷地部分の土地(以上、本件買戻物件)の明渡しが一年間猶予されたのは、控訴人代表者の依頼による丸紅の恩恵的措置として行なわれたものであり、控訴人は、本件買戻物件をたまたま買い戻すことができたに過ぎない。
(1) 本件買戻物件については、本件代物弁済契約において買戻し等に関する何らの取決めがない。
(2) 控訴人は、本件代物弁済契約をした日を含む昭和四五年五月期の確定決算において、本件代物弁済契約に基づき丸紅に譲渡した資産(本件代物弁済物件)の総てを自己の固定資産から除外して、丸紅に対する債務額のうち右物件の譲渡価額相当額の債務を減少したうえ、当該譲渡価額と帳簿価額との差額を営業外収益に計上している。
(3) 丸紅も本件代物弁済契約をした日を含む昭和四五年九月期の確定決算において、本件代物弁済物件の総てを自己の固定資産に計上し、控訴人に対する債権額のうち右物件の譲渡価額相当額の債権を減少させており、本件代物弁済物件のうち減価償却資産につき減価償却を実施している。
2 本件代物弁済契約と本件買戻契約とは、全く別個独立のものである。
昭和四五年三月当時控訴人に対し約八億円の債権を有していた丸紅は、その回収方法について検討した結果、控訴人を整理することとし、その整理方法として、控訴人の所有する大和工場の資産を買い取つたうえで控訴人に対する営業から手を引くことが最も有利であるとの判断のもとに控訴人と本件代物弁済契約を締結したのであつて、代物弁済により取得した資産をどのように処理するか予め予定していたものではなく、たまたま控訴人から依頼があつたため、本件代物弁済物計のうち本件買戻物件だけ、とりあえず明渡しを一年間猶予し、五〇〇〇万円の損害金を支払わせて控訴人に使用させることとした。
本件代物弁済契約第一七条には、本件買戻物件が一年の明渡猶予期間満了後において当然に丸紅に明け渡されることを前提に右明渡しが不履行となつた場合を想定して、「乙(控訴人)が目的物件を明渡猶予期間後も甲(丸紅)に対して明け渡すことができない場合の処理方法は甲に一任することを乙は予め承諾した。」と定めている(甲第七号証)。したがつて、丸紅としては、本件代物弁済契約時においては本件買戻物件を控訴人に売り戻すべき契約上の義務は何ら負つていなかつたが、たまたま明渡猶予期間を経過したころに予期に反して業績が好転してきていた控訴人から買取りの申出があつたため、検討した結果、代物弁済によつて回収しきれなかつた約一億五〇〇〇万円の残債権の回収とも関連して、控訴人の申出に応ずることが丸紅にとつて有利であるとの判断のもとに、新たに本件買戻契約を締結するに至つたものである。
また、昭和四六年一二月二〇日に控訴人と丸紅との間に成立した本件和解の原因となつた争いは、本件代物弁済物件を控訴人が丸紅に対して契約どおりに引き渡さなかつたこと等により生じたものであるが、仮に本件買戻物件の処理方法が本件代物弁済契約締結時に予定されていたとすれば、少なくとも本件代物弁済物件の全部を対象として、かかる紛争が生ずる余地はなかつたというべきである。
控訴人が本件全体の建物及び本件機械の一年間の減価償却費相当額の損害金五〇〇〇万円を支払つても、丸紅が控訴人に一年間本件買戻物件の明渡しを猶予し当該資産を使用させることに伴つて生ずる資産価値の減少を控訴人に補填させるのは当然である。
3 本件工場・倉庫及び本件機械装置(本件資産)の買戻契約における売買価格は、丸紅がその帳簿価額に基づいて一方的に決定したものではなく、また当時の時価に比較して不当に低い価額で決定されたものでもない。
本件資産の買戻契約における売買価額については、控訴人が丸紅に対して買戻しを申し出た際に、売買代金等の支払条件等とも併せて、土地二億四六三九万六〇〇〇円、建物五九二八万九〇〇〇円、機械九一二五万三〇〇〇円とそれぞれの価額を控訴人が示し、これを受けて昭和四六年九月一七日に双方が協議した結果、おおむね控訴人が提示した価額に近い価額をもつて双方が合意し、その売買価額は丸紅の帳簿価額を約一七五一万円(土地一二七万円、建物五〇万円、機械一五七四万円)上回つている。しかも、本件資産は汎用性のない特殊なものであるから、その売買価額は当時の時価よりむしろ高額であつたとさえ推認される。
4 丸紅は、本件買戻契約に伴い本件買戻物件についてその所有期間中の減価償却費の合計(約五五〇五万円)と全く関連性のない右約一七五一万円の固定資産売却益を計上している。したがつて、同社が本件資産について代物弁済前の状態に組み戻す会計処理をしたと解する余地はない。
丸紅は、本件代物弁済契約に基づく取引と本件買戻契約に基づく取引とは全く別個の取引と認識していたのであり、同社にとつては、本件資産を代物弁済前の状態に組み戻すべき理由も必要性も全くなかつた。
5 控訴人は、買戻物件のうちの一部である本件資産については従前の帳簿価額に依拠して自ら会計処理を行つたことを取り上げて、本件買戻物件に係る買戻時の控訴人の会計処理が代物弁済時の会計処理の組戻しの処理であると主張するが、控訴人は、買戻しにかかる本件工場等敷地部分の土地の取得価額に関して一億一七八九万二九七四円という算定根拠の不明な金額を付して、右土地の取得に関する会計処理をし、買戻しという同一の取引において、その取引の対象となつた土地と建物及び機械装置とに関して統一性のない極めて恣意的な会計処理をしているのであつて、右処理をとらえて、代物弁済時の会計処理を組み戻すための会計処理であるとする控訴人の主張は、合理的な根拠がない。
6 パイプライン等の装置について
(1) 本件代物弁済契約書に添付の機械器具目録には、「・・・右諸機械の運転作業上必要なる伝導装置、附属器具、設備一切現状有姿の儘」と付記されている(甲第七号証)とおり、機械器具の本体だけではなく、それと一体となつている付属設備を含む機械装置全体が代物弁済の対象とされており、本件機械装置にこれを稼動させるために必要なパイプライン等の装置が含まれていた。
(2) 甲第一六号証の一は、代物弁済物件の代物弁済時における価額の算定経過を示しているに過ぎず、パイプライン等の装置そのものを代物弁済物件から除外する趣旨のものではない。
(3) 控訴人主張のパイプライン等の装置の一億三七五〇万円の根拠を推定すれば、次のとおりである。
丸紅は、控訴人の再建が困難であり、控訴人を整理する以外に方策はないと判断していたところから、代物弁済物件の評価に際しては、その物件を転売処分して自己の債権を回収する場合の価額をもつて評価した。しかも、本件機械装置は、特殊な機械で、操業をやめた場合は、買手もなく転用もできずスクラツプ同然のもので、代物弁済時に丸紅がこれに付した一億二一二一万七〇〇〇円は、非常にいい値段であつた。そして、本件機械の代物弁済時の価額の右算定にあたつて控訴人の昭和四四年五月期末の帳簿価額から一億三七五〇万円を控除したのは、
<1> 控訴人の昭和四四年五月期末現在において機械装置全体に係る減価償却不足額が八七五七万円あり(乙第一五号証の一及び二)、
<2> 転売処分した場合には明らかにスクラツプとしてしか処分できないもの(評価額を零とすべきもの)が四九九三万円あつた
ために、まず、これらの合計額である一億三七五〇万円を代物弁済時の価格算定の基礎から控除したのである。このことは、丸紅作成の書面(甲第一七号証の二)に「償却不足△八七、五七〇千円、除却償却△四九、九三〇千円」と記載されていることからも推認しうるのであつて、右一億三七五〇万円は、控訴人が主張するパイプライン等の装置の帳簿価額とは何ら関係のない金額である。
(4) 控訴人は、パイプライン等の装置が代物弁済の対象物件から除外されていたと主張しながら、代物弁済に伴う会計処理は、何らそのことを反映したものとはなつていない。
第三 証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の当審における主張を加えて検討しても、本件代物弁済契約と本件買戻契約とを一体にみて本件買戻物件の譲渡担保性を認めることはできず、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。そして、その理由は、次のとおり付加するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
1 原判決四二丁表一行目の「第六号証、」の次に、「第一四号証の一及び二、」を付加する。
2 同四八丁裏二行目の次に行を改めて次のとおり付加する。
「控訴人は、本件機械装置のうちパイプライン等の装置が本件代物弁済契約の対象物件から除外されていたとして、これを前提とする新たな主張をするけれども、前記(原判決理由)二、2、(一)で認定した事実、前掲甲第七、第八号証、成立に争いのない甲第一七及び乙第一五号証の各一及び二(甲第一七号証の一及び二は原本の存在も)及び弁論の全趣旨によれば、本件代物弁済契約は、丸紅と控訴人との間でそれまでに締結されていた三つの代物弁済予約契約(本件機械装置は昭和四〇年三月一一日付契約)に基づき予約完結するとともに予約目的外の建物等についても新たに代物弁済契約を締結し、控訴人の大和工場における総ての物件を対象にしたものであつて、特に右パイプライン等の装置のみを本件代物弁済契約の対象から除外したとすべき事情は認められず(除外すれば、面倒な結果になるだけで代物弁済としてメリツトはない。)、本件代物弁済契約書及び本件和解調書各添付の機械器具目録の「附属器具、設備一切」、「附属器具一切」との記載によつても、右パイプライン等の装置は、本件代物弁済契約の対象物件に含まれていたものと認めるのが相当である。
成立に争いのない甲第一五及び第一六号証の各一及び二も前掲各証拠に照らし、控訴人の右主張を支持するものとは認められず、他に控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。なお、本件機械装置につき、控訴人主張の一億三七五〇万円が本件代物弁済契約後における丸紅の簿価決定にあたり控除されたのは、パイプライン等の装置とは関係ないことは、前出甲第一七号証の二により明らかである。
その他控訴人は、本件機械装置が、本件代物弁済契約ないし本件買戻契約において合意された価格よりはるかに高額であつたことを前提として、種々右価格の不当について主張するが、控訴人の主観においてはともかく、本件代物弁済契約において、前記認定のとおり丸紅としては控訴人の工場を経営する意思がない以上、本件機械装置は安く評価されてもやむを得ないものであり(このことは、原審における控訴人代表者本人尋問における供述でも認めている。)、そうである以上、本件買戻契約の際に改めて高額に評価することはできないのは当然であるから、昭和四五年四月における帳簿価格如何にかかわらず、前記各合意価格が不当であるとする根拠はないというべきである。前記甲第一五号証の一、二も、本件買戻契約における折衝過程で控訴人が償却資産、特に本件機械装置の価格を上昇させたい(その分の価格だけ本件工場等敷地部分の土地への割り振りを減ずる。)との希望案を示したことは窺われるものの、前記認定事実及び成立に争いのない乙第一四号証に照らし、結局右案は採用されなかつたものと認められる。
以上のところから、本件機械装置の控訴人の取得価額が前記合意された九一〇二万七八三〇円であるとして減価償却費を算出した被控訴人の措置に誤りはない。」
二 してみれば、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小堀勇 裁判官 時岡泰 裁判官 山崎健二)